東京高等裁判所 平成2年(ネ)4027号 判決 1991年8月26日
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴人らの当審における予備的請求をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人周藤代理人は、「一 原判決を取り消す。二(主位的請求)被控訴人らは、控訴人周藤に対し、原判決別紙物件目録一記載B・C部分の建物を収去して同目録二記載の土地を明け渡せ。(予備的請求-第二次的請求)被控訴人らは、控訴人周藤に対し、控訴人周藤から金一二一五万九二一二円または相当額の金員の支払を受けるのと引き換えに同目録一記載B・C部分の建物を収去して同目録二記載の土地を明け渡せ。(予備的請求-第三次的請求)被控訴人らは、控訴人周藤に対し、控訴人周藤から金三五三六万六八八〇円またはこれを著しく超えない範囲内で裁判所が決定する金額の支払を受けるのと引き換えに同目録一記載B・C部分の建物を収去して同目録二記載の土地を明け渡せ。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決(なお、予備的請求はいずれも当審において追加されたものである。)を求め、控訴人吉良代理人は、「一 原判決を取り消す。二(主位的請求)被控訴人らは、控訴人吉良に対し、原判決別紙物件目録一記載A部分の建物を収去して同目録三記載の土地を明け渡せ。(予備的請求)被控訴人らは、控訴人吉良に対し、控訴人吉良から金三五〇〇万円またはこれを著しく超えない範囲内で裁判所が決定する金額の支払を受けるのと引き換えに同目録一記載A部分の建物を収去して同目録三記載の土地を明け渡せ。三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決(なお、予備的請求は当審において追加されたものである。)を求め、被控訴代理人は、控訴人らの各主位的請求につき控訴棄却、当審において追加された各予備的請求につき請求棄却の判決を求めた。
本件事案の概要は、控訴人らの当審における新たな主張を次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載と同一であるから、ここにこれを引用する。
(控訴人らの予備的請求)
控訴人らは、予備的に、本件更新拒絶の意思表示の正当事由を補完するものとして、被控訴人らに対して前記予備的請求として記載した金額の各補完金を支払う旨を平成三年六月三日の本件口頭弁論期日において申し入れた。
なお、控訴人周藤が提示した補完金のうち金一二一五万九二一二円は被控訴人らが本件建物から収受する一か月の純賃料収入を二三万三八三一円とし、本件建物の残存賃料収益期間を四年四か月とした場合の純賃料収入の合計金であり、また、金三五三六万六八八〇円は本件借地契約が法定更新されたと仮定しその賃貸期間二〇年を右残存賃料収益期間とした場合の同様の算定方法による純賃料収入の合計金である。
(証拠関係)<略>
理由
一、当裁判所も、控訴人らの被控訴人らに対する主位的請求をいずれも棄却した原判決は相当であると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか原判決の「事実及び理由」の「第四争点に対する判断」と同一であるから、ここにこれを引用する。
原判決九枚目表六行目の「賃借していた」の次に「幸田年子を除く」を、同八行目の「ものであった」の次に「(なお、控訴人らが本件土地を買い受ける際に作成された「土地売買契約書」の第六条には、本物件上の建物所有者から万一、異議苦情があったときはすべて控訴人らの責任において解決する旨記載されていた。)」を、同裏三行目の「含めた」を「含む本件建物及び神奈川県藤沢市鵠沼所在の居住用借地権付建物等の」をそれぞれ加え、同九行目冒頭から同一一行目末尾までを「東京地方裁判所平成元年(借チ)第二一八五号土地賃借権譲渡許可申立事件における鑑定委員会の意見によれば本件土地の更地価格は評価時点(平成二年三月一日)において一〇億八〇〇〇万円と評価され、本件借地権はその七五パーセント程度と判定されている。」に改める。
二、そこで予備的請求について次に判断する。
控訴人らが、平成三年六月三日の本件口頭弁論期日において、正当事由を補完するためとして被控訴人らに対し前記(控訴人らの予備的請求)のとおりの補完金を支払う旨の申入れをなしたことは本件記録上明らかである。
そして、補完金(立退料)の提供は、土地の賃貸借契約における更新拒絶の正当事由を補強する事情になり得る場合があり、控訴人ら及び被控訴人らの前記の諸事情を比較検討すると本件においても土地明渡しに伴う利害得失を調整するために相応の補完金の提供の申出がなされれば右正当事由が補完されるに至るものというべきである。しかしながら、前認定のとおり相続税申告の際の本件土地賃借権は一億九九四五万一三九七円と評価されており、また、東京地方裁判所平成元年(借チ)第二一八五号事件において、その鑑定委員会は本件土地の平成二年三月時点の更地価格を一〇億八〇〇〇万円、近隣地域における慣行的借地権割合を更地価格の七五パーセントとする評価意見を示しているのであって、右鑑定委員会の本件借地権の評価額をそのまま本件における補完金額とすることは適当ではないとしても、本件においては右相続税申告の際の評価額程度の補完金の提示を要するというべきであり、控訴人らが本件において提示した各補完金額は右相続税の申告の際の評価額を控訴人らの各所有面積割合で割った金額と比較してもいずれも著しく低額であるから、控訴人らの右補完金の支払の申出をもってしてもこれによって更新拒絶の正当事由が具備するものと認めることはできない。
三、そうすると、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がなく、また、控訴人らが当審で追加主張した予備的請求もいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条本文、八九条、九三条本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。